- 2018/01/22(月)
- 農業を志す方々へ ― 寺尾 卓也さん ―
野菜は素直にしか育たない
だから自分たちが変わるしかない
農業で独立を果たしてから5年目。
「野菜本来の美味しさを届けたい」そんな想いで、「固定種」の野菜づくり、無農薬無肥料での野菜づくりにこだわり、年間100品目以上の野菜栽培をしている寺尾さん。
3年前に法人化を果たし、東京・代々木上原に次いで、恵比寿、銀座にもそれぞれ直営レストランをOPENするなど、これまで順調に事業拡大を実現されています。
そんな寺尾さんに農業への想いや就農希望者へのメッセージなどを伺いました。
(株式会社ALL FARM 代表取締役 寺尾卓也さん)
【寺尾卓也さんプロフィール】
静岡県出身。
大学卒業後、大阪の農事組合法人にて2年間農業に従事。
従業員として稲や野菜の生産に携わる。この間、農業での独立を決意。
資金を貯めるため、1年間建設業に従事する。
2012年千葉県佐倉市の有機農家にて農業研修
2013年独立し、在来農場を開場。
2014年直営レストラン「WE ARE THE FARM」を東京都渋谷区にOPEN
2015年法人化。株式会社ALL FARM 設立。
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■まずは、なぜ農業を始められたのかを教えてください
初めから農業をやろうと考えていた訳ではありません。
小さい頃、近くの畑で農作業の手伝いをしたという記憶はありましたが、農家出身という訳ではありませんし、大学も農業系の学部という訳でもありませんでしたし。
きっかけは、大学の時に飲食店でアルバイトをしていたことですね。食材を扱っているうちに、『農業と飲食店を繋ぐ』っていうことに関心が出てきたんです。それで農業にも関心が出てきて、生産現場に行ってみようと。当時アルバイトしていた飲食店の繋がりで、縁あって大阪にある農事組合法人に大学卒業後から就職することになりました。
■独立を意識されたのはいつ頃からですか?
農事組合法人で働き始めた頃は、右も左もわからない中で、目の前の作業をこなしていくことに必死でした。当時はとにかく会社を盛り上げていけたらいいな、と考えていました。
そのうち、だんだんと慣れてきて、仕事もある程度任されるようになっていったんですが、雇われて働くということは、最終的にはどうしても他人任せの部分があって、「自分ごととして考える」という環境に身を置きたいと考えるようになってきたんです。
それで独立をしようと決意しました。独立を決めてからはまずはお金を貯めようと1年間建設関係の仕事をしました。
(事務所にて)
■その後、なぜ千葉に移られたのですか?
農業で独立しても、『農業と飲食店を繋ぎたい』という思いがずっとあったので、大消費地である東京近郊で研修できる農園を探したんです。それで、千葉県佐倉市の有機農家さんのところで1年間研修をさせていただけることになって、そこではたくさんのことを学びました。研修後はその農家さんに農地も紹介してもらって独立を実現しました。
■寺尾さんにとって独立はゴールではないと思いますが、寺尾さんが農業を通じて実現されたいこととはどんなことですか?
『野菜づくりにこだわって、それをいかに見せていくか』ということだと思います。
私たちが普段スーパーで買い物をするときに見る野菜の姿って、野菜の一生の中で見るとほんの一部分でしかないんですよね。でも、本当は野菜とか畑にはもっともっと大きな可能性があると思うんです。
私たちは「固定種」といって、昔から代々受け継がれてきた種にこだわっています。あまり知られていないかもしれませんが、現在一般的に出回っている野菜は「交配種」といって生育しやすいようにとか、形が整いやすいように改良が加えられたものが主流になっています。これらの野菜からは種を取ることができません。一方、私たちが栽培している野菜は、「伝統野菜」や「在来種」などと言われているような野菜で、昔からあった野菜です。種を蒔いて育った後の形や大きさはみんなバラバラになります。出来上がった野菜の中から良いものを選抜し、種を採り、また次の世代を生み出していきます。どんな野菜ができるかは育ててからのお楽しみです。
そして、私たちの農園では農薬や化学肥料を使いません。そうすることで、野菜は自らの生命力と多くの微生物や昆虫に助けられて力強く育ちます。生産量は通常の栽培方法よりも劣りますが、お客様にとって安心で安全で、なにより、本当に美味しい野菜をつくることができるんです。
(固定種の種)
そんな野菜づくりをどうやったらお客様に伝えられるか、どうやったら自分たちがこだわってつくった野菜を美味しく食べてもらえるか、そう考えて作ったのが直営のレストランです。私たちの提供する料理を食べていただいたお客様が「美味しい」と言ってまた来てくれるように、農場スタッフはお客様やお皿の上の料理のことを考え、お店のスタッフは畑のことをどうお客様へと伝えていくかを考える。農場スタッフ、お店のスタッフ全員が一つになって農業の可能性を追求していきたいと考えています。
(代々木上原の直営レストラン「WE ARE THE FARM」)
■農業という職業のやりがいはどんなところに感じられていますか?
人として成長できるところだと思います。
野菜を育てる過程には細かい作業の繰り返しが多いですし、心が折れそうになることもあります。天候や害虫など外的要因に左右されることもあって、手間をかけても全部ダメになってしまうことがあります。正直失敗の方が多いくらいです。でも野菜は素直にしか育たないんですよね。だから、野菜を美味しく、力強く育たせるためには、自分たちが変わるしかないんです。自分を磨いて、苦労を乗り越えて、良いものができたときはやっぱり嬉しいですし、自分自身が成長しているなって感じることができます。それが何よりのやりがいです。
(畑にて)
■最後に、これから新規就農を目指していらっしゃる方にメッセージをお願いします。
『何で農業をやりたいのか』もう一度考えてみてほしいと思います。
農業をやるにはいろいろなやり方があります。
「植物が好き」とか「野菜が好き」なのであれば、家庭菜園でもいいですし、少し大きめの菜園なら販売だってできます。
嫌々とか、仕方なくやるなら自分で農業を始めるのは絶対に辞めた方がいいと思います。大変ですから。
もし興味があって迷っているなら、なるべくリスクの無い方法を選ぶべきだと思います。
例えば、1年間は他の仕事をしながら土づくりに専念するとか。私自身ももう1回初めからやり直すなら、経験してきたやり方とは違うやり方をすると思います。
ご興味があるなら、まずは経験者の話をたくさん聞いて何がいいのかを考えてみるのがいいのではないでしょうか。
もちろん、法人へ就職するという道もありです。
私自身は、先程お話したとおり、農業は人として成長できる素晴らしい職業だと思っています。だからもう1回人生をやり直しても農業を選びます。
自分を磨くことに楽しみを感じられる方にとっては、きっといい職業だと思います!
【取材を終えて】
『 農業は経験や勘が必要だ』 という昔ながらの職人気質的な考え方を、ITで農業を変えていこうという風潮に世の中は変わりつつありますが、寺尾さんはあえて「職人を増やしていきたい」と仰っていました。自分の手で野菜を育て、出来た野菜の中から、後継となる種を選抜して命を繋いでいく。それを繰り返していくと、もうそれは“自分のオリジナルの野菜”になるのだそうです。何十年か働いた後、「この種をお前に託す」といって、後輩に自分がずっと育ててきた野菜を渡す。それって職人が匠の技を伝承するのと確かに同じですよね。命を繋いでいく過程の中で、自分自身を磨き、成長していく。簡単なことではないと思いますが、とても素晴らしい職業だと共感しました。寺尾さんの会社の発展とともに、匠の集団ができていくことを楽しみにしています。
◎現在、寺尾さんが代表を務める「株式会社ALL FARM」では、農場の生産スタッフを募集中です。ご興味のある方は、詳細をお伝えいたしますので、株式会社あぐりーん 職業紹介サービス担当まで。
株式会社あぐりーん
TEL:043-244-7631 E-mail: recruit@agreen.jp
※ご連絡の際は、「ALL FARMの記事を見て」とお伝えください。
農家のおしごとナビ : http://www.agreen.jp
酪農業
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